奉納された沢山の鎌に戦慄、縁切り不動明王を祀る山奥の寺院
世の中には、どうしても切りたい縁というのがある。
悪友や元恋人、浮気相手や上司。人間との縁だけでなく、煙草やお酒・ギャンブルの縁など…。
時に、そんな悩める人々を救うのが、日本各地に点在する縁切り神社や縁切り寺だ。
京都の安井金比羅宮や東京の四谷於岩稲荷が有名だが、四国に最強の縁切寺があるという極秘情報を入手した。その名は龍王院――。
高知の山奥にある寺院で、「縁切り寺」を標榜しており、様々な悩みを抱えた人々の駆け込み寺だ。
半信半疑で縁切り祈願をした1ヶ月後、とんでもない効果が現れたのだ…
【道程】龍王院まで往復6kmを歩いてみた
浮上するアクセス問題
龍王院は主要な観光コースから外れた、深き山の山中にある。
地図で見れば判る通り、龍王院がある岡豊町滝本は、山脈の中に凸状に突き出した集落だ。
別に思い詰めていた訳では無いが、せっかく高知に来たし、
「ま、行ってみっか」
という軽い気持ちで参拝を決意。ただ問題なのがアクセスだ。
国道384号線に面しているので車両でのアクセスは容易だが、車がない場合はバス移動が基本になる。
しかし高知駅・はりまや橋方面から、龍王院最寄りのバス停・毘沙門口へのバスはとても少ないのが難点。
龍王院方面へのバス
高知駅方面から毘沙門口に停車するバスは「【G4】医大病院行」「【G5】南国オフィスパーク行」「【G6】領石出張所行」の3系統。
このうちG4,5は平日の朝・夕方みの運行で、G6の領石出張所行も1~2時間に1本しかないので、要注意。 (参考リンク: とさでん交通株式会社 )
私は直前まで土佐神社・善楽寺を参拝していたのだが、次に龍王院方面へ向かうバスは50分後。
googleのルート検索によると、龍王院までは片道3kmで、私の脚なら30分で着けそうだ。
周囲には時間を潰せそうな場所も少なく、色々悩んだ末バス代も節約できるしここから徒歩で行軍することにした。進撃開始!
自らに発破をかけつつ、往復6km超の道のりへ歩みを進めるのであった
目標、龍王院!!
土佐神社から龍王院の入り口までは、国道384号線を一直線。
よほどの方向音痴でない限り、迷うことはないだろう。
土佐神社の楼門まで戻れば国道384号線なのだが、実際は善楽寺裏手の住宅地を進んだほうが近道だ。
ちなみに、ここはへんろ道にも指定されている。
へんろ道、というのは四国八十八ヶ所霊場を徒歩で巡礼するお遍路さん向けの道標で、へんろみち保存協力会や地元自治体によって整備されている。
この住宅地を抜けると、国道に出る。ここからはひたすら東進だ。
歩行者は誰ひとりいないが、晴天の中を順調に進撃した。
ちなみに、途中で穴熊の轢死体と遭遇。
道路沿いに土建会社が多い関係で交通量が多く、大型トラックやトレーラーがどけんどけんとばかり突進してくる。
...間違っても、歩道以外は歩かないように。
途中の自動販売機でエネルギー補給をしながら歩くこと約20分、ようやく龍王院への入り口に到着だ。
突然の山道
さて、龍王院入り口へ続く道は、これまでの道路と違って山道感が出てくる。
バスで毘沙門口停まで来た人も、ここからは徒歩で行くしかない。ずいぶんコミカルな手書きの看板が配置してある。
途中に民家や集会所か散在しているが、人の気配はほとんどない。
たまに車両が通るのが、ひょっとして龍王院へ向かう同士だろうか。
しばらく歩くと、突然山道になる。人っ子一人おらず、かなりディープな雰囲気だ。
なんというか、つちのこが出てきそう。
ちなみにこの道、やたらとHOTEL LUANAへの案内板がある。
すわ、軍路を撹乱するテキ(誰だ?)の戦略か!?
龍王院への案内板は少ないので、変な話このHOTEL LUANA案内板に従って歩けば、自然と目的地へと近づける。
川沿いの道を歩くこと10分、ここがHOTEL LUANAとの分岐点だ。間違ってホテルに突撃しないように。
そして分岐点から数分、遂に目標の龍王院山門に辿り着いた。
重厚な山門が「よく来たな」とばかりに出迎えてくれる。
【由緒】龍王院ってどんなお寺??
ところで、龍王院とはどのような寺院なのか。
――正式名称は信貴山高知別院龍王院。
白龍に乗った観世音菩薩からのお告げを受けた先代住職・宗圓慶州師によって、昭和58年(1983年)に開山。
奈良県にある毘沙門天の総本山・信貴山朝護孫子寺の別院であり、全国から縁切りを願う参詣者が絶えない......。
( 参考リンク: 信貴山高知別院龍王院公式サイト )
【境内】いざ、龍王院へ参詣
滝本不動尊像
まずはお手水でお清めをしよう。
縁切り寺、ということで身構えていたが、手書きの看板にカエルの置物が和やかだ。
境内でまっ先に目につくのは、滝本不動尊像。高さ4mほどの白い巨像だ。
こちらは縁切り不動尊とは別の不動尊だが、毎年2月の節分会法要時は本尊として崇められる。
白龍観音と開山堂
山門の正面に天高く聳えているのが、福徳財運・豊農・豊漁のご利益がある白龍観音だ。
このお堂は開山堂といって、龍王院を開山した先代住職が生前葬を営んだ時の石棺で安置されている(!?)
お堂の壁一面に、その住職の写真が貼ってありかなりビックリする。
私はタダナラヌ新宗教感を感じてUターンしてしまったが、感じ方は人それぞれだろう。
本堂…必勝毘沙門天を祀る
本堂の前には小さな太鼓橋がかかっている。これを渡って本堂に参拝しよう。
龍王院の本尊は必勝毘沙門天。
戦いの神で、勝負運・金運・福徳財運・開運招福などのご利益がある。
なんで金運...?と疑問に思うかも知れないが、毘沙門天の眷族はムカデ(百足)と云われており、お足(=お金)がたくさんということらしい。
上杉謙信と毘沙門天
毘沙門天、と聞いて上杉謙信を思い起こす人も多いのではないだろうか。
謙信は戦いの神である毘沙門天を崇拝しており、自らを毘沙門天の生まれ変わりと信じ軍旗に「毘」の字を使っていた。
ちなみに謙信のライバル・武田信玄も伝令部隊の旗にムカデの図柄を使っており、これは「ムカデは後退することがない」という習性にあやかったものらしい。
あらゆる仏様に会えます
境内には様々な仏様がおられるようだ。まずは太鼓橋周辺におられる七福神の方々。
七福神で一番人気なのは、布袋尊ではないだろうか。なんせ金運・財運の神様だ。
すぐ近くには寿老人。長寿の神様で、よく水墨画などに描かれる。
大黒天、日本だと縁結びで有名な出雲大社の主祭神・大国主神と習合している。
長い頭が特徴の福禄寿は、健康長寿の神だ。
恵美酒尊。恵比寿という表記が一般的だが、恵美酒という表記は珍しい。
弁財天。七福神の中では唯一の女性神で、芸能関係者から篤く信仰されている。
これら6天と、本堂の毘沙門天を合わせると七福神の完成だ。
また太鼓橋の下にも別の弁財天像があり、橋の下に降りて参拝ができる。
こちらは七福神像の中に紛れている、ボケ封じ観音菩薩。最近とみに物忘れの激しい筆者は、念入りに参拝。
すり鉢大師・十二支守り本尊
更に、大量の水子地蔵に囲まれたすり鉢大師まで。
すり鉢大師というのは、祈願によって流行り病を収めた伝説がある元三大師のことで、特に首から上の病にご利益がある。
その横にはかえる地蔵があって、あらゆる幸せがかえるそうだ。
右写真の、囲碁をしているカエルの置物がキュートだ。
更に、すり鉢大師の裏手には十二支守り本尊が安置されている。
十二支守り本尊というのは、人が出生した干支ごとに定まっている守護仏で、例えば子年生まれは千手観音菩薩、丑年生まれは虚空蔵菩薩……といった具合だ。
十二支守り本尊一覧
・子年生まれ...千手観音菩薩
・丑年・寅年生まれ...虚空蔵菩薩
・卯年生まれ...文殊菩薩
・辰年・巳年生まれ...普賢菩薩
・午年生まれ...勢至菩薩
・未年・申年生まれ...大日如来
・酉年生まれ...不動明王
・戌年・亥年生まれ...阿弥陀如来
自分の干支の守り本尊を知っておくと、なにかの役に立つのではないだろうか。
というわけで、境内にはもう仏教界の主要な仏様には、ここに来ればあらかた参拝できるんじゃないかというレベルの仏像が祀られている。
しかし、縁切りのご利益がある真の場所は、こことは別にあるのだ…。
【検証】縁切不動明王に祈願してみた
縁切りターゲット
ところで今回、私が縁切りを祈願するのは誰なのか?
少しお話しよう。以下、縁切りターゲットをXとする。
Xと私とは、一時期一緒に仕事をしていたのだが、己の保身の為ならあらゆる虚言・諫言をする、ちょっと困った人間だった。
実は、以前私が自律神経失調症になってしまったのも、このXのストレスが原因なのだ。
で、色々と不可抗力があって、今でも月数回はXの職場に顔を出す必要がある。物は試しということで、今回はこのXとの縁切りを祈願してみよう。
まぁ、ストレス源からは離れるに越したことはないのだ。
奉納された、大量の鎌
実は、参拝客が縁切りを祈願する真の場所は本堂ではなく、本堂向かって左にある縁切不動明王堂だ。
実はこの寺に到着した時、いかにも訳ありそうな女性がお堂の中で15分くらいブツブツと何事かを祈願していたので、参拝が後回しになってしまったのだ。
ようやく先客がいなくなったので、いざ突撃。
案内板によると、男女・浮気・前世因・事故・病気・癌・悪霊・賭事etc...
およそ思いつく限りの、あらゆるものとの縁切りが可能らしい。すごいぞ、龍王院!!
お堂の中は薄暗く、奥に小さい仏像が安置されていて、その手前に香炉がある。
驚くのは、仏像の周囲に縁切りを願って奉納された大量の鎌。
失礼を承知で、1枚だけ写真を撮らせていただいた。
こんなにも、悩める人がいるのだろうか…。
ちなみに、鎌の奉納には許可が必要なので、勝手に奉納しないように。
ここで数分間、縁切りの祈願をしたが、霊感のない私でもあまり長時間いられないような重厚な念を感じる場所だった。
さらば龍王院
さて、祈願は終わった。例によって次のバスまでだいぶ時間があるので、歩いて土佐神社まで戻る。
ちなみに高知駅方面のバス停は、龍王院入り口の交差点を100mほど東に行ったところにある。
少し離れているので、要注意だ。
来たときよりも、なんとなく晴れ晴れした気分だった。
途中、霊園のある辺りからへんろ道入り口を見つけたので、ここを辿る。
その後無事にバス停に到着し、市内へと戻った。
往復6kmの道程を歩いたので、だいぶ疲れた。冬だから良かったが、夏季はなるべくバスを使ったほうが良いだろう。
後日、とんでもない効果が…
当たり前だが、デ○ノートじゃないんだから、参拝した直後になにか起こる訳もない。
だって起こったら怖いもの。
そして、参拝から1ヶ月が経過した頃にXの周囲に様々な異変が…。
Xが熱を入れて主宰していた某サークルから、次々と部員が離反し分裂状態になった。
更にその直後、Xの職場が突然の閉業。
…いや、そこまでしなくても、いいんですけど!?
でも、結果的に今後しばらくはXと顔を合わさずに済みそうだ。なんと快適な…。
ありがとう、龍王院。
まぁ偶然だとは思うのだが、、、ね…(笑)
【おまけ】ガチなパワースポットはこっちかも
ところで龍王院の山門より手前に鳥居があって、ここは滝本神社の入り口だ。
鳥居を潜ると、池に沿って道が続く。
この池は工事中で堰き止められており、水量は殆どなかった。
突き当りが滝本神社だ。
説明書きがなかったのでよく分からないのだが、ここに祀られているのは龍王院境内におられた滝本不動尊と同じ神様ではないだろうか。
廃仏毀釈の影響で神社と寺が分離した例は多いのだが(先日参拝した龍光寺もそうだった)、どうなのだろう。
ただ龍王院の建立は昭和期なので、直接の関係はなさそうだが......詳しい人がいたら、情報求む。
また水源には毘沙門の滝があり、水量こそ僅かだがなんとも言えない清浄パワーを感じる。
断っておくが、私はスピリチュアル信者ではない。
しかし、そんな私でも感じ取れる何かがこの滝にはあった。
それが何なのかは、今もって分からない…。
―――以上、あくまで一個人の体験談だが、想像以上の効果があった龍王院。
信じるか信じないかは、あなた次第。
【アクセス】予めバス時刻表を確認を
記事中でも触れたが、龍王院最寄のバス停は「毘沙門口」。
高知駅・はりまや橋方面から毘沙門口に停車するバスは「【G4】医大病院行」「【G5】南国オフィスパーク行」「【G6】領石出張所行」の3系統。
このうちG4,5は平日の朝・夕方みの運行で、G6の領石出張所行も1~2時間に1本しかない。
予めとさでん交通の停留所別時刻表で確認することをオススメする。
ちなみに高知駅から毘沙門口までの運賃は460円。
高知県内のICカード「ですかカード」以外の交通系ICは利用できないので、現金を用意しておこう。