2023年正月は、念願の四国ひとり旅。2日目の朝は愛媛県宇和島市で迎えました。
ところで、なぜ宇和島なのか…?
その理由は、宇和島市では毎年正月に、全国的にも珍しい闘牛大会を実施しているからです。
初めて闘牛の存在を知ったのは、学生時代に読んだ吉村昭さんの短編集「海馬」でした。
闘牛に命をかける男の物語で、戦いに向けた食餌や訓練、角の研磨などが興味深く描写されていました。
それほどまでに人々を惹きつけて止まない闘牛とは、一体どのようなものなのか?
長年の夢だった宇和島闘牛。令和5年正月場所の模様をお届けします。
宇和島闘牛とはなにか?
戦後はGHQによって禁止された歴史も
宇和島闘牛の起源に関しては諸説ありますが、19世紀初頭には土俵を設けた本格的な闘牛が行われていた記録が残っています。
大正から昭和初期にかけて最盛期を迎え、市内各所に設けられた土俵や「駄場」と呼ばれる竹柵で作られた簡素な闘牛場に人々が詰めかけました。


終戦後の昭和23年、動物愛護などを理由にマッカーサー率いる連合軍総司令部(GHQ)によって闘牛が禁止されてしまいました。
しかし全国各地の闘牛関係者からの繰り返しの陳情によって、2年後には規制が解かれました。
現在は年4回の開催
宇和島闘牛は、毎年以下の日程で年4回開催されています。
かつては7月に和霊大祭場所が開催されていたのですが、闘牛数の減少によって取り組みをしていくことが難しくなり、令和3年から当面の間は開催を見送ることが決まりました。
日本各地の闘牛
ちなみに、闘牛の文化が残っている地域は宇和島以外にもあります。
沖縄県・うるま市の闘牛は全国ナンバーワンの年間観客動員数を誇り、年間で10場所ほども組まれています。
一方で日本最古の闘牛文化は、島根県の北方に浮かぶ隠岐の島。
承久の乱で流された後鳥羽上皇を慰めるために行われたのが起源で、800年以上の歴史を誇ります。
その他、山形県・岩手県・新潟県・徳之島(鹿児島県)に闘牛の文化が残っており、愛好家たちによって次世代に継承されています。
宇和島市営闘牛場へ
開催日には無料の臨時バスが運行
会場である宇和島市営闘牛場は、丸山という小高い丘の上にあります。
地図で見ると駅から直線距離で300mほどですが、実際は1.7kmほどの山道を登らなければいけません。
有り難いことに、大会当日は宇和島市内から無料の臨時送迎バスが出ているので、それを利用します。
バスに揺られて10分ほど。闘牛場に到着です。
チケットは当日券が3,000円。前売券は2,500円。
ネットから簡単に予約可能なので、事前に予約手続きをしておきましょう。
場内に入ると、宇和島名物の牛鬼がお出迎え。
売店ではお弁当やおでん、お茶やお酒などが売られています。宇和島名物のじゃこ天もあります。
突然、会場の外から牛の咆哮が。
なんだ!?と思って顔を向けると、戦い前の牛たちが牛舎に待機していました。


会場内は自由席。座席は区切られていないので、好きな場所に座れます。
冬はベンチが冷たいので、座布団は必須!!
入り口でレンタルしているので、借りておきましょう。
ドーム型の会場なので、天候に左右されずに闘牛が開催されます。
開幕式は12:00からですが、時おりウォームアップ中の牛たちが土俵に出てきます。
時おり土俵に体を擦りつけるのは、自分の縄張りであると言う主張なのだそうです。猫のスリスリみたいで、かわいい(笑)


令和5年正月場所、開幕
12:00に開幕式が始まりました。
先ずは地元の子供たちによる太鼓の演奏。その後、宇和島市長や来賓の挨拶へと続きます。
さぁ、いよいよ取り組みが始まります!
司会者の「オーイ、牛(ぎゅう)を出せヨォー」という独特な掛け声と共に、待ちに待った牛たちが登場!
まずは開幕を告げる引分戦の一番。龍煌vs曳龍號の闘いです。
この引分戦は勝敗を付けずに、キリの良いところで勢子たちが出てきて2匹を引き離します。


続いて前頭戦、小結戦、関脇戦、と取り組みが続いていきます。
ここからは引き分けなし、どちらかが勝つまで勝負が行われます。
勝負は数秒で決まる事もあれば、10分を超えることもあります。
基本的には、どちらかが角を外して「逃げ」の姿勢を取ると負けのようです。
勝負が終わると、勢子が鼻緒をつけます。この勢子たちは取り組み中は常に牛の側に付き添っていて、なかなか危険な仕事です。


闘牛、と言うとスペインのマタドールのように獰猛猛進みたいなイメージを持ちがちですが、決してそんなことはありません。
勝負が決まると、負けたほうの牛はいかにも「参った参った」という感じでトボトボと立ち去ります。


勝ったほうの牛は「どぉーだぁ」という感じでしばらくその後を追跡しますが、決して追い討ちをかけるようなことはしません。
一種の、牛同士の間に交わされた「ルール」のようなものを感じました。


取り組みはテンポ良く次々と行われます。なかなか、休憩するタイミングがありません(笑)
派手な装束で登場する牛、鳴り物や大旗付で登場する牛などもいます。場内はかなりの盛り上がりです。
大熱戦の横綱戦
大会の大トリはもちろん横綱戦。
この日は天龍台風vs美蝶蘭の一番。天龍台風は徳之島出身の牛で、島では「戦闘台風」という物凄い名前がついていたようです。
これまで以上に、ものすごい熱戦です。両者一歩も引かず、互角の勝負が続きます。
勢子の掛け声にも力が入っていて、伝統の闘牛ができる誇り・喜びが客席まで伝わってきます。
勝負は一進一退、気がつけば取り組みが始まってから10分経過。
1月2日に開催された、宇和島闘牛正月場所。
— こばとん🕊ひとり旅専門の人 (@Kobato_trip) 2023年2月15日
天龍台風vs美蝶蘭による横綱戦は、10分を越える大熱戦でした。#宇和島闘牛 pic.twitter.com/gJobaN6iIq
そして最後に勝利したのは、津島町出身の美蝶蘭。
取り組み時間はこの日最長の12分32秒。手に汗握る激闘でした。
【おわりに】正月場所を終えて
初めて闘牛、と聞いたときスペイン闘牛の「暴れ牛」のようなイメージを持っていました。
しかしここ宇和島をはじめ日本各地の闘牛は、かつて「突合わせ」と呼ばれていたことからも分かるように、牛同士で角を付き合わせるだけの温厚な闘牛です。
牛が角を合わせるのは本来の習性で、犬で言えば吼え合い、人間で言えば腕相撲のようなものでしょうか。


闘牛場の牛たちは、みんな野生本来の活き活きした目をしていて、そこからは力いっぱい取り組みができる喜びのようなものを感じました。
(まぁ、それでも色々意見はあるのでしょうがね…。)
牛と言うのは、本来やさしい動物です。
海外の闘牛では時たま死傷者を生ずる大事故が起きますが、あれは牛を意図的に過度な興奮状態にさせているからだと思います。
人間のほうが、よっぽど危ねぇ。
伝統文化を守る闘牛関係者の熱意、危険を承知で牛に付き添う勢子たちの勇気に、脱帽!
またいつか、観に来よう。
晴天の中、大満足で闘牛場を後にするのでした。
【参考文献】吉村昭「海馬」…動物テーマにした短編集。宇和島闘牛のほか、トド撃ち・鰻漁・蛍の人工孵化・羆撃ちなどが題材になっている。